経験のマネジメント

まだ、私が新卒の社会人だった頃を、ふと思い出すことがあります。

英会話教材の電話営業の部隊。(まさに華やかな舞台でした・・・)

当時の上司は非常に育成に重きをおいた方で、私なんかはいつもダメだしをくらっていました。
ある日、いつものダメだしの後、その上司が「お前がまだまだだってことは、

俺もまだまだってことなんだろうなー」としみじみと言われたことを覚えています。
「どういう意味ですか?」と聞くと、「部下は上司の鏡なんだよ」とのお答え。


少し前に「子どもが育つ魔法の言葉」(ドロシー・ロー・ノルト著)という書籍が
ベストセラーになりました。
子育てについて書かれた本ですが、その中に「子は親の鏡」という下りがあります。

 けなされて育つと、子どもは、人をけなすようになる
 とげとげした家庭で育つと、子どもは、乱暴になる
 不安な気持ちで育てると、子どもも不安になる
 ・・・・・

と続いていくのですが、要するに親というのは子供に多大な影響を与えているのだ
ということを、分かりやすい言葉で伝えています。


同じことが部下と上司の関係にも言えます。部下というのは、特に若い部下であればあるほど、
上司から多大な影響を受けます。

仕事のやり方・進め方、仕事に対する考え方・姿勢等、上司が思っている以上に部下は
上司を見ていて、知らず知らずのうちに影響を受け続けていきます。

経験の浅い部下にとっては、上司のやり方が良いか悪いかさえ判断つかないわけですから、
「仕事とはこういうものだ」と思い込んでしまうでしょう。

逆に上司はこのことを常に意識しなければならないと考えます。
また、「あいつは仕事の進め方がまずい」、「仕事に対する姿勢がなっていない」などと、
よく部下の欠点について嘆く上司がいますが、
それは上司である自分自身が少なからず影響を与えた結果だということを自覚する必要があるでしょう。


冒頭お話した私の元上司は、部下である私の仕事ぶりは、自分のマネジメントによって
決まってくると考えていました。

人は仕事を通じて成長する、そして上司は部下の成長ぶりをみながら更なる仕事を与えていく、
部下の成長のきっかけとなる仕事をマネジメントすること、

すなわち部下をみて「人をマネジメントする」よりも「経験をマネジメント」をするのが上司だと。
その経験を正しく認識させて、ときに修正させてこそ、正しく「人」として成長するという結果につながるものであると。
だから、「人」を責めてはいけない。「人」を否定するようなことを言ってはならない。

そして私は今でもその考え方に色濃く影響を受けており、そんな姿勢でマネジメントして
くれていた元上司に対して感謝の念を抱いています。


最後に、その上司が教えてくれたもう一つの言葉を添えて締めくくりたいと思います。


「すべての責任は自分にある」

上司や指導者の本質は、その覚悟にあるのではないでしょうか。